デジタルの腕時計は10:03AMを表示していた。
スークの中は人と品物であふれていた。特に買いたいものがあるというわけではないが、このような人ごみの中で目的のない顔をしていたのでは、ホテルに戻る頃にはあらゆるものが無くなっていそうだ。
ペルシャ風の工芸品を並べている店に入ってみると、金メッキの小さな短剣や、インドからの輸入ものではないかとおもわれるような真鍮製の動物などがケースの中で輝いていた。
隣のケースには、古い時代を感じさせる銀の飾り板があった。本当の製作年代などわかりようもないが、古代ペルシャの神アフラマズダが浮き彫りされていた。

そして、「それ」はその隣のケースにあった。長いあいだ新しい主人を待っていたかのように。
一目で気に入ってしまった。

値段の交渉は延々と続き、腕時計はついにPMを表示した。欲しいがその金額では買えないだから仕方ない。
店の主人はそれの周りに置いてあった幾つかのものを付けると言い出した。これらは一緒に新しい主人のもとへ行くのがいいだろうから、と言うのだ。
その一言で、なにか不思議な気分が湧き上がり、とうとうその値段でそれらを買い取ることにした。